独特の光で多くの芸術家を魅了した、南仏ニースでアート巡り。
南仏ニースの海岸沿いにあるホテル・ネグレスコはアートなホテル。13世紀から現代までのフランスの絵画や彫刻をコレクションしており、ロビーや客室など至る所に作品が飾られています。中にはエリザベート・ヴィジェ=ルブランの自画像なども。125ある客室はすべて違うインテリアで装飾されています。中でもナポレオンをテーマにしたジュニア・スイートでは、彼が好んだ白鳥や蜂のモチーフを随所に見ることができます。アートな一晩を過ごせるホテルです。
ニースには「芸術のエスプラナード」と呼ばれるエリアがあり、劇場や図書館が集まるカルチャーゾーンとなっています。その中にあるのが〈ニース現代美術館〉。六角形になった建物がユニークな美術館です。ここではニース生まれのイヴ・クラインや、ニューヨークとニースを拠点としていたアルマンらニースにゆかりのあるアーティストの作品を中心に展示しています。地中海に面した南仏ニースはヨーロッパの他の地域にはない独特の光で多くのアーティストを惹きつけました。ピカソ、マティス、ボナール、コクトー、ルノワールらがニースを訪れ、あるいは滞在しています。そこではフルクサスやシュポール・シュルファスといったグループやムーブメントの作家たちが活動し、ニューヨークやパリのアート・シーンも刺激していました。この美術館ではそういった動きを作品から読み取ることができます。
ニース郊外に、マルク・シャガールの個人美術館があります。開館したのは1973年7月7日。その日はシャガールの86歳の誕生日でした。本人の生前にできた唯一の国立個人美術館です。建物の一部はシャガールのモザイク画で飾られています。館内のどの場所にどの絵を設置するかも彼自身が決めました。建物は随所に大きな窓が開けられて、内外をつないでいます。建物や庭はあえてシックな色合いにして、中に入るとシャガールのビビッドな色遣いを楽しめるようにしています。
〈ホテル・ネグレスコ〉近くにある〈マセナ博物館〉はナポレオン軍で功績のあったマセナ司令官の孫が建てた邸宅を、ナポレオン時代を中心にした歴史博物館にしたもの。当時の服や肖像画、装飾品などが展示されています。ここで面白かったのが特別展示されていた、ブレアという画家の磔刑図です。ブレアは1475年から1516年までニースで40以上も祭壇画を描いた画家。この磔刑図はシミーズ修道院にありましたが近年、修復されたのを記念して2019年4月から3年間、このマセナ博物館で展示されています。
この絵ではイエスの十字架を囲んで嘆く人々の感情表現もいいのですが、プラデッラ(裾絵)と思われる小さな絵のイエスの表現がなんともいえません。一連の受難の場面でごく控えめながら苦悩や怒りの表情を見せるのです。素朴だけれど味わいのある絵です。
ニースで目にするアートはどれも色鮮やか。海にきらめく陽光が眠っていた色彩感覚を呼び覚ますのでしょう。日本の美術とはちょっと違う感覚の作品は、その土地固有の光から生まれています。
取材協力:
フランス観光開発機構(http://jp.france.fr)
ニース観光会議局 (www.nicetourisme.com)